拝啓  芥川龍之介先生

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拝啓  芥川龍之介先生

私は1月3日の日に雑司ヶ谷霊園へ貴方を訪ねていった者です。 先生はいらっしゃいませんでしたね。 話しかけても、何も答えてくれなかったので御手紙差し上げました。 まず、どうか一つ此の書においての先生に対する冒涜をお許し下さい。 先生のおっしゃられた「文芸的な、余りに文芸的な」物語を好む者へ書いているのです。 私を怒りに降りて来て頂けませんでしょうか? 私にはまだ「歯車」が見えません。 代わりに「百足」が見えるのです。 先生の見えていた「歯車」より数は多いかと思われます。 「点鬼簿」には載りそうなのか分かりません。 仮に私が其方へ行けば先生に合えますか? 此の書で冒涜している以上、先生には会える気がしないのです。 私からはです… これから此処は「地獄変」となります。 私が描く「地獄変」です。 それを描く為に「羅生門」へ火を放ったのも私です。 「藪の中」での惨劇は全て私が受けるべき事です。 どうか先生 私の「地獄変」を「文芸的な、余りに文芸的な」と怒鳴りつけに来て欲しいのです。 その際、此の世で未完であった「邪宗門」を持って来て頂ければ嬉しいです。 先生が去りどれ程の時間が過ぎたか分かりますか? 其方でも未だ完結済みで無いとは言わせません。 長くなりました。 最後に此の御手紙の中身を最後の一行へ詰め込みます。 「私は貴方に会いたいのです。」 或る阿呆の河童より (どうか河童と書いて、「うげつ」と御読み下さい)
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