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「大きくなったら、僕、ヒーローになる!」
「あぁ、お父さんはゆうきがヒーローになってくれるの待ってるぞ。」
あれから16年の月日が経った。僕はもう20歳になり、公立大学に通っている。正直僕の人生、ヒーローになれたことなんて1度もなかった。川に溺れた少年を助けることも、いじめにあってる女子を助けることも、何一つやっていない。それどころか僕はいわゆる普通だった。とりわけかっこいい訳でもないし、スポーツができたわけでもないし、勉強は出来る方だと中学生までは思っていたが、高校で一気にその自信は消え去った。だが、別に陰キャラとか、空気みたいな存在でもなく、学校を休めば
「そーえば今日あいついなくね?」
「風邪引いたんじゃね」
ぐらいの存在。
そんな僕が今困っていることがある。僕の前で女の人が倒れている。どうすればいいのか…。彼女は黒く擦れた服に身を包み、裸足の足が彼女のつらさを語っている。髪はボサボサで、顔を黒い煤のようなものがついているが、よく見るととても若く高校生ではないかと思った。いや今はそんなことより救急車を呼んだ方がいいのかと思い、声をかける。
「大丈夫ですか?!今、救急車呼びますからね。」
反応がなく、急いで救急車を呼ぶ。
「火事ですか?救急ですか?」
「救急です…、あの、人が倒れていて、えぇっと、それで、」
いざ電話すると、かなり慌てふためいてしまう。
「住所はどこですか?」
「〇〇市の…、〇〇町にある〇〇アパートの前です。」
「どのような様子ですか?」
「はい、ええっと…道に人が倒れてて、声をかけたのですが、意識もなくて…」
「あなたの名前を教えてください。」
「河越ゆうきです。」
「ありがとうございます。もう少しお待ちください。」
電話を切ると、遠くから救急車の声が聞こえる。
「大丈夫ですか?もう少しで救急車きますから。」
トントンと彼女を軽く叩いてみるが、やはり返答はない。ようやく救急車が到着した、はずだった。何故かこちらにはやってこない。
「こっちです!」
「こっちに倒れている人がいます!」
僕の叫び声は全く届かない。近所の人かたくさんの人が道路へ出てきたのに、誰も僕の声を聞いてくれない。走って救急車の方に駆けたが、だれも僕の方を振り向いてくれない。どうして…。
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