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2.僕の声
いつの間にか叫び声になっていた僕の声は救急車がいた10分の間、誰にも届かなかった。救急車がいなくなり、僕はどうしていいのかわからず、混乱していた。どうして僕達の方を振り向いてくれないのか。周りの人は何故僕の声が聞こえないのか。そのうち、たまたま聞こえなかっただけだったのではないか、と頭の中で記憶を書き換えていく。そうだ、もう一度119番に電話をして、もっと詳しく場所を説明すればいいんだ。そう思い、電話を握り、119と押す。
「火事ですか?救急ですか?」
電話がかかった。良かったと安堵し、
「救急です!」
とハッキリそう言った。なのに、もう一度同じ言葉が帰ってきた。
「火事ですか?救急ですか?」
「救急ですっ!」
より大きな声を出した。10分間叫び続けていたとは思えないほどハッキリと大きな声で話したのに。
「大丈夫ですか?」
全く声が届かない。僕の心は必死に否定していたが、ついに認めた。あぁ、僕誰にも見てもらえないんだ、僕の声は誰にも届かなかったんだ、と。静かに電話を切り、僕はつったったまま、彼女をただ見続けた。僕は漠然とし、心に穴が空いているようだった。いつの間にか橙色の空が真っ黒に染まっていた。
どのくらい時間が経ったのか。2時間、3時間。いやもっと経っているかもしれない。僕はゆっくりと腰を下ろし、彼女に言った。
「もう外は真っ暗ですよ。」
その時には僕の声はガラガラだった。
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