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ローリエが台の上に置かれると、王はうつむいたまま彼の亡骸にゆっくりと触れた。
「まだ17だぞ……」
王は消えてしまいそうな声でつぶやくと、ローリエの白い頬に数滴の滴が流れ落ちた。
「息子は皆から好かれていた……私なんかよりもずっと良い王になれる器の男だった……」
俺も本当にそう思う……
彼がもういないのかと思うと、この先どうなるのかという不安が込み上げてきた。
大広間には王の落胆した声、そして皆の沈黙があるだけだった。
泣くのを堪えていた少女の1人が耐えきれずに外に走って行った。
「この子は強かった……武術も、知恵も教養も、他のとは違った。戦で名誉の死を遂げるならまだしも、なぜ狩りなのだ……なぜ狩りなんかで死なねばならんのだ」
ガウダーはブラッキオの方を向いた。
ブラッキオは王に目を合わせることはなく、下を向いたまま黙っていた。
「お前がついていながら、なぜなのだっ。お前はいつだったかローリエに狩りの経験をさせたいと言っていたな。お前が息子に、馬鹿みたいにでかい熊と戦わせたんじゃないのか?」
王は再びブラッキオに詰め寄った。
「大熊と戦わせるつもりなど最初からありませんでした。私が戦う姿を見せるだけ、そういう算段でした。それに今回熊などいなかった……」
ブラッキオの返答に対し、ガウダーが何かを言おうとした時、手首の宝石をじゃらじゃらと言わせながら文官が戻ってきた。
そこに呪術師らしき者の姿はなく、代わりに文官は砂の入った樽を抱えていた。
彼は王を見て、王が頷くと樽を地面に置き、中の砂に指で何かを描きはじめた。
それは、見たこともない記号のようなものだった。
「これで良し、と」
文官が手をはたきながら言った。
その瞬間の出来事だった。
窓から風が強く入ってきて、砂の表面が舞い上がり、樽から溢れ始めた。
溢れた砂は風に乗って反対側の窓の方へ吸い込まれるようにして、細い筋となって外に出て行く。
今のはなんだ……
あれは自然に入ってきた風じゃなかった。
風が意図的に砂を運んだような、あるいは砂が風を呼び込んだかのような感覚だった。
それに今も微かな風が吹いていて、まるで砂が空中を1本の紐のように少しずつ外へ運ばれている。
この砂は一体どこへ運ばれているんだろう。
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