ごほうび

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『康隆さん!』 『こんにちは。舜、大丈夫か?』 病室に現れたのは康隆さんだった。 『あ、由紀さん。これお見舞いです。』 『あら、ありがとう。ここのケーキ私大好き。』 『ちゃんと由紀さんの好きなチーズケーキも有りますから。』 『もう、相変わらず素敵ねぇ。やっちゃんは~』 母さんは肘で康隆さんの腕をつついている。 『あら、なんか多くない?』 『悩んでたらつい、いっぱい買っちゃって。 箱わけて入れてもらったんで、余っちゃったらナースステーションとかに配って下さい。』 はにかみながら説明した。 『そのつもりで多目にしてくれたんでしょ? ありがとね。早速持っていくわね。』 鼻歌を歌いながら1つを冷蔵庫に入れて、もう1つの箱を持って病室を出ていった。 『勉強?舜は偉いな。』 『あはは、留年かかってますんで』 『おいおい、冗談だよな~?』 康隆さんはベッドの横の椅子に座って教科書をペラペラ見ながら『懐かしいな~』と笑った。 色素の薄い髪の毛は光が当たって少し茶色く見えて、 休みの日だから前髪も下ろしていた。 銀の細いフレームの眼鏡がよく似合ってる。 正直、俺には男としてこの人に敵うものは何一つ無い気がする。 『よくここが分かりましたね。』 『うん。この前舜のバイト先に飲みに行ったら舜居なかったからさ。眼鏡のバイトの女の子に聞いた。 そしたら怪我して休んでるって。 病院はアキトに聞いたんだ。びっくりしたよ。』 眼鏡……榎本さんかな。 『あの子、舜が好きなんだね。 すごい心配してたよ。彼女?』 『違いますよ!』 『だよね。舜は昔からなっちゃんひとすじだもんな』 ぽんぽんと俺の頭を撫でてきた。 『高校受験の時も、なっちゃんと同じ学校行くって泣きついてきて………あの時もだいぶ頑張ったよな。』 思い出し笑いをされてしまった。 『そーでしたっけ?』 『あはは、拗ねんなよ。羨ましいって言ってんの!』 『何がですか』 『好きな子の為に一生懸命になれる舜が羨ましいよ』 康隆さんはどこか寂しそうに笑った。 『この怪我もなっちゃんを守ったからなんだって?』 アキ兄………口が軽いな…… 『俺がお礼を言うのも変だけど……ありがとう』 康隆さんは頭を下げた。 『え、ちょっと………やめてくださいよ…』 『小春も居なくなって なっちゃんも…ってなったら…俺、耐えられない。』 康隆さんは小さく呟いた。
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