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テストはあんまり集中出来なかった。
苦手な現国だったし。
物理は良かったんだけど。
『なつめ、舜のとこ寄ってみない?』
『うーん……やめとく。最終日に答え合わせに行くよ』
美知子と駅で別れて、急いで帰った。
玄関に黒い華奢なピンヒールが一足。
『なつめちゃん、お帰りなさい』
『紅子さん…』
紅子さんはリビングでヨルイチを膝にのせて、キジトラをネコじゃらしで遊ばせていた。
『銀次は御使い中なの。私が代わりに留守番。』
『そうなんだ…』
紅子さんは私を見て、クスッと笑った。
『善の事、よっぽど心配なのね。走ってきたの?』
とっさに乱れていた髪の毛を直した。
なんか、恥ずかしい………
それに、紅子さんの言い方がなんかモヤモヤする。
『安心して?善とはとっくに終わってるから。』
『え………?』
いきなりのカミングアウト。
ちょっと何も言えない。
『気持ち悪いこと言わないで下さいよ。
紅子さん。』
不機嫌な顔をした善が寝室から出てきた。
『あら、起きたの?つまんない。』
善はすたすたと冷蔵庫まで来ると、ペットボトルの水を取り出した。
『用が済んだなら帰って下さい。』
『冷たいわね。猫のお世話したのに。』
『頼んでませんけど。』
『意地悪ね。心配したのよ?』
善の苛立ちを楽しむように紅子さんは笑った。
そのやり取りが、なんだか親しさの様に見えて余計に悲しくなった。
入り込めない空気。
じっと二人のやり取りを見ていると
私の視線に気付いた紅子さんはヨルイチを抱き上げ
私に渡してきた。
『嘘よ。お互い趣味じゃないしね。』
『え?嘘?』
『ねぇ?善。』
『………いい加減怒りますよ?』
『あら、怖い。
ねぇ善、なつめちゃんを暫く貸してくれない?』
『え?』
急にとんでもないことを言い出した。
『どうせ一緒に寝てるんでしょ?
風邪うつっちゃうわよ?』
『え、でも………』
『私と善の関係、知りたくない?』
知りたいけど………
ちらりと善を見た
めんどくさそうにため息を吐いて
『お好きに。』
空のペットボトルをゴミ箱に放ると、また寝室に戻ってしまった。
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