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と言って、また笑った。クラス一同がまたそれに同調して笑った。 「うるさいんだよ」  低い、大きな、はっきりした声だった。安西の声だった。 「父親が男で、母親が女。アンタの貧しい想像力じゃ、それが想像できる限界でしょうね」 「はあ?何だよ、お前。急に」 「はっきり言って私には、アンタの言うことはタワーマンションに暮らせないひがみにしか聞こえないんだけど」  村上は安西の勢いに圧倒されて立ち尽くしていたが、何かを思いついたようで、 「…へえ、お前、タワーマンションに暮らしてるからって、自分が金持ちだとでも思ってるわけ?オレ、知ってるんだぜ。お前の母ちゃん、夜、六本木のスナックで働いてるんだってな?実は全然金持ちじゃねえじゃん。この嘘つき女。まあお似合いだよ、ホモの子と嘘つき女とで」  今度は僕はガタッと音を立てて立ち上がった。自分が何かを言われたことより、安西を侮辱されて、僕は腹が立った。安西はそんな僕の方をチラっと見て、 「アンタも何か言い返しなさいよ。自分の親のこと悪く言われて、悔しくないの?」 とぴしゃりと僕を叱った。  安西も自分のことより、僕の悪口を言われたことに腹を立てているのがわかった。それだけで、僕はもう満足だった。  自分のことより大切に思える人。こんな気持ちは初めてだった。そういえば、ウー兄が「自分より大切な人ができたらわかる」と言っていたけれど、それはこういう気持ちのことだったのかもしれない。  学校帰りに安西の家に寄った僕は、 「安西は、泰介さんと哲さんの二人の関係は一体何なんだと思う?」 と思い切って聞いてみた。すると、安西が即答した。 「そりゃあ、恋人同士に決まってるじゃない」  恋人同士。恋人同士と言えば、僕はウー兄とスミレさんのことを思い出す。泰介さんと哲さんは、ウー兄とスミレさんのような関係。あれ?でも今日僕は、ウー兄がスミレさんに対して抱いた感情と同じ種類の感情を、安西に対して抱いたんじゃなかったか。となると、泰介さんと哲さんの関係は、安西と僕の関係と同じということだ。  僕の中で、泰介さんと哲三の関係は、ずっと疑問だった。答えがわからず、悶々としていた問題に対する答えが、こんなにあっさりと出るなんて。僕はどうして家に漂うあの空気を毛嫌いしていたのか。自分が恥ずかしくなった。 「ありがとう」 「・・・は?どうしたのよ、急に」 「いや、何でもない」
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