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僕の両親は二人とも男で、哲さんはそのうちの一人である。
哲さんの口癖は、
「人は誰でも必ず、一生賭けて愛そうと思える人に出会える。そういう風にできている」
というもので、
「一人でいいんだよ。一人だけでいいんだから。圭君も絶対見つかるよ。ていうか、そんなの一人しか見つからないんだけどね」
と僕にもいつも言うのだ。
僕は本当の両親の顔を知らない。僕は乳児院で育ち、そのまま児童養護施設で育った。
施設で育ったことを可哀想という人は多いけれど、それは間違いだ。というか、可哀想というのは何かと比較した結果であって、他人と比較しなければ自分の立ち位置が恵まれていると思えないのなら、それこそ可哀想なことだと思う。
施設で一緒に過ごした皆のことを、僕は家族だと思っている。普通の子には母親と父親がいて、通常は同じ家で暮らし、ご飯を食べ、眠るらしいと知ったのは、僕が保育園に行くようになってからだった。それまでは、世の中の子たちは皆、僕と同じようにどこかの施設で暮らしていると思っていた。
そんな僕が小学校三年生の、ちょうど夏休みに入るという日に、終業式を終えて施設に帰ってきた僕を門の所で待っていたのが哲さんだった。前日までのどんよりした梅雨空が嘘みたいにカラリと晴れ上がっていた。太陽を背中に背負った形で、哲さんは僕の目の前に現れた。
「圭君だね?初めまして。君を産んだ人の兄の新田哲です。君を迎えに来たんだ」
僕は正直、どう反応していいのかわからなかった。施設長さんが僕に色々と説明をしてくれた。この人はね、ずいぶん前から圭君のことを気遣ってくれていてね。ようやく一緒に暮らせる環境が整ったそうなの。よかったわね。
身体が固まって動けなくなっていた僕の代わりに、奥からウー兄が出てきて、哲さんに言った。
「俺、臼倉と言います。すいません、俺、コイツの兄代わりみたいなもんなので、聞いていいですかね?」
とウー兄は鼻息荒く言った。
「アンタの職業は?何やって暮らしてるんですか?どうしてコイツを引き取りたいんですか?そこんところ、俺が納得できない人には、コイツ、預けられないんですよ」
ウー兄はそう続けた。
養親が見つかって施設を出ても、また施設に帰ってくる子もいる。その理由の一つが、養親の方の金銭的な理由だった。それをウー兄は気にしているのが、僕にもわかった。
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