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ーー3ーー (1)
「姉ちゃん、入るよ」
母さんがいなくなってからすっかり暗くなってしまった。
「……!姉ちゃん、止めて!」
弟は私の腕をはたいた。
カッターが空を切る。
「なんで?誰にも迷惑なんてかけないよ?」
弟は大粒の涙を落とした。
「もう、誰かを失うのは嫌なんだ」
顔をあげると、自虐的に笑う弟がいた。
「もう、どこにも行かないで?誰のところにも行かないで?いいよね、姉ちゃん」
もはやこの家には『平和』なんて言葉はなかった。
***
「父さんは?」
「仕事」
居間には、鳥子ーー次女ーーと風夏ーー三女ーーが座っていた。
「おい、姉貴。なんで母さんを見捨てた?!」
鳥子は喧嘩をふっかけるように口を開いた。
「違う、花凛姉ちゃんは見捨てたわけじゃない。花凛姉ちゃんが見つけた時にはーー」
「おいおい、喧嘩をしに集まったわけじゃあねえだろうがよ。鳥子姉は一旦黙って聞けば?」
風夏が喧嘩を止め、冷静な空間にした。
「今日、みんなに集まってもらったのは他でもない母さんのこと。いいよね」
その場にいた全員が頷くのを確認した。
「さっき月矢が言った通り、私は見つけただけ。それでね、おかしなところがあるの。それはね……」
「私が入った時、全ての鍵がしまっていたの」
「じゃ、じゃあ……どうやってーー」
最初に気づいたのは風夏だった。
「そう、おかしいよね。私が家に帰った時には誰もいない。だけど鍵はしまっていた。普通なら 家の誰かが……って考えるよね。でも、鳥子は私が頼んだ生徒会の手伝いをしていたし、風夏と月矢は剣道のやつでしょう。私は見つけただけ。父さんは確か会議に出ていたから、この家族に犯人がいるってことは無さそうなの」
その場の空気が凍りついた。
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