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 刑事たちが帰った後のアトリエで私は考えていた。  岡田はつまり、自分と惠梨香との仲を言いたかったのだ。モデルの仕事は私の時だけしかない。しかしプライベートでは惠梨香は岡田のものだった。  私は惠梨香に私にも心を開いてもらおうとした。しかし惠梨香は仕事以外で、私には全く興味を示そうとしなかった。  いくら惠梨香を描いてみても、惠梨香が私に心を開いてくれない限り、本当の惠梨香を描くことはできない。  多分、永遠にそんな時は来ないのだろう。  私は一度仕舞った絵具箱を開け、他よりも大きな白い絵の具のチューブを取り出し、パレットに絞り出した。  太い絵筆で白い絵の具を取ると、未完成の惠梨香の絵の端から塗りつぶしていった。  もう二度と惠梨香の絵を描くことはないだろう。  惠梨香の瞳のない顔が白い絵の具の下に消えていく様が、三日前に見た記憶と重なった。  穴の中に横たわる惠梨香。  被せた土に、徐々に隠れていくその美しい顔。                             終わり
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