2

1/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

2

 私は画家で、静物画を専門に描いてきた。  学生の頃から付き合いのある画商が私のことを買っていてくれて、美大を卒業するとすぐに個展を開いてくれたし、顧客も何人か紹介してくれた。パトロンとなった数人の顧客は私の新作を欲しがったし、また、別の何人かのコレクターも私の絵を手に入れたがっていた。  ということで、私の絵はかなり良い値で売れた。私は画家としては恵まれているといえた。  しかし、私自身はどこかで限界を感じていた。今まで描いてきたものは学生時代からの延長でしかなかった。もう少し違った面から絵を描いてみたい。そんな欲求が私の中に芽生え、徐々に大きくなっていった。  そこで思い付いたのが、人物画だった。  人は常に動いている。顔の表情も体の色も形もすぐに変わる。それに人は心を持っている。内面には感情も思惑もある。人物画でそんなものを表すことができるようになれば、私の描く静物画も、もっと奥の深い、人の心に染み入るようなものが表現できるように変わるのではないかと思った。  そして何人かのモデルでデッサンとスケッチを重ねているうちに惠梨香と出会った。  惠梨香はモデルたちの中でも飛びぬけて美人というわけではなかった。しかし、私には惠梨香は特別に見えた。朗らかな性格で、内にある華やかさは格別だった。  私はたちまち惠梨香に引き込まれた。人の内面を表現する方法を探りたいと思っていた私にぴったりのモデルだった。  そう思うと、私はほかの者に惠梨香の絵を描いてもらいたくないと考えた。私はまだ、どのような方法で人の内面を描き出そうかというはっきりしたイメージは持っていなかった。他の者が描いた惠梨香の絵に影響されたくないと思った。まっさらなイメージのままで惠梨香を描いてみたい。私だけが私のイメージだけで惠梨香を描きたい。  そんな考えから、私は惠梨香と専属契約を結んだ。私以外の人間に対して絵のモデルにならないという契約をした。私にはそれを行えるだけの財力があった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!