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 一週間前だった。  私は思い悩んだ末、岡田のアトリエを訪ねた。  岡田は私と違って、静物も人物も風景も描く。人物を多く描いていたが、どんな種類の絵も、明るい色の原色を多用して、筆のタッチの残る描き方をする、私とは全く違うタイプの画家だった。  岡田は、私が惠梨香と専属の契約を結ぶ前はよく惠梨香の絵を描いていた。自分の気に入った作品は自分の手元に置いておきたい人間だったので、きっと惠梨香の絵もあるだろうと思った。  岡田の描いた惠梨香の絵を見れば何かヒントが掴めるかもしれないと思ったし、もしかしたら、私が惠梨香の絵を完成できない理由もわかるかもしれないと思った。  ウェーブした長い髪の毛を持つ、自身が描く絵と同じような華やかさをまとった岡田は、快くアトリエに招き入れてくれた。 「絵で悩んでいる? 天才の君が?」 「天才が悩むかよ」 「じゃ、君も凡才だったってわけか」  そう言いながら岡田はアトリエの隅に並んだキャンバスの中から一枚を選んで持ってきた。  それは百号の大作だった。私はその絵を見て、激しく心臓が躍った。  派手やかな色使いだけではない。岡田は惠梨香の華やかさを見事に表現していた。 「どうだ? 結構気に入っているんだ。もう原口を描くことはできなくなったけれどね」  私の心臓の高まりは止まなかった。  なぜだろう。なぜ岡田はこんなにも惠梨香の内なるものを描き出すことができるのだろうか。 「まあ、惠梨香も人間だからね。何を描きたいかにもよるけれど、その人の内面まで表現したいと考えているようなら、その内面まで曝け出せるような仲にならないとだね」  岡田はそう言った。
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