それは、突然やってきた

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最初に郵便受けに入っていたのは、沖縄県にある「はての浜」の写真のポストカードだった。 ターコイズブルーの真ん中に細長く続く白い砂浜。モーゼが海を割った跡に見えて、手に取ってからしばらくその写真を眺めていた。 俺の住所と名前の下、「お元気ですか?こっちは暑いを通り越して痛いけど、とっても景色が綺麗で快適です。谷川 藍」と、メッセージが添えられていた。今年の春に退職した、俺の一個上の女先輩である。梅雨が明ける前の六月のこと。 その次は、八月に静岡県のヒリゾ浜の写真。岩肌を露出した山に囲まれた海。はての浜と違い、深く透き通った青が写真映えする。それにもちょっとしたメッセージが加えられていた。なんの変哲もない、現状報告。 だから全く気が付かなかった。 「藍、六月から連絡取れないの。」 変な力の入れ方をして、枝豆の中身が一つ飛んでいく。周りのガヤが遠くなった気がした。男女交えた仲のいい同僚達4人との飲みの席、俺の向かい側に座る浅田さんが首を横に振る。彼女は、谷川さんと親友と言っていいくらい仲が良いはずである。 「誰か、知らない?既読もつかなくて。」 「そういや、飯行こうって連絡したけど返事来てなかった気が。」 「え?あの、ポストカード、皆の所には来てないの?」 視線が一気に俺に集まり、その瞬間の迫力に少しだけ怯んだ。それぞれの表情からして、カードを貰っているのは俺だけだと察する事が出来る。からん、グラスの中の氷が音を立てるのを合図に、皆が一斉に喋り出す。なんで深澤君だけなの、とか、お前ら付き合ってたの?とか。 彼女とは、このメンバー達と交流してたくらいで、一対一でなんてせいぜい年賀状くらいだ。二人で食事とか、メッセージのやりとりとか一切無い。慌ててお付き合い疑惑を否定して、そのうち皆の所にもハガキが来るかもとなんとか話を終わらせた。 時間は、あっという間にすぎていった。
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