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浜辺の二人
『浜で月見と洒落込まねえかい?』
タカがミワにそう告げると、ミワは卵型の可愛らしい顔をほのかに歪ませ、その小さな唇に笑みをたたえた。
終戦から三年。
出征する前に見たときと変わらずミワは愛らしい女だったが、清楚な美は消え失せ、何処と無く婀娜っぽい色香がその身から滲み出ていた。
昼間、タカの住む集落で祭りがあり、久々に幼馴染たちと飲み語りあうなかで、ひっそりと隅っこに佇む女のすがたをタカは見つけたのだった。いやに綺麗に着飾ったその女をタカは横目を細めて見つめた。
紫の波紋の着物を着て、黄色の帯を締めた女のその細首は長く白く、際立っていた。
つい最近、幼い子供を一人連れて帰ってきたらしい。
『パンパンやってたらしいぜ』
声をひそめてタカに教えた隣の友人に、タカは酒を流し込む手を止めず頷いたのだったが。
* * *
「酔ったときだけ憂さが少し晴れるぜ。畜生。おい! 俺の脚を食いやがった憎い鮫公め! 聞いてやがるか」
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