忘れられないぬくもり

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忘れられないぬくもり

新年があけた。 今日は毎年参拝している神社へ行く。 いつもは母と行くのだが、今年は違う。 念入りに身支度をすると、待ち合わせ場所へと急いだ。 神社の最寄り駅に到着。 スマートフォンを見ると、待ち合わせ時刻の30分前。 はりきって早く来すぎちゃったかな。 冷たい風が吹くと、寒さで体が震えた。 昔は毎年、家族3人で行っていた初詣。 あの日も寒さは厳しく、身を震わせながら神社へ行った。 参拝を終え、大行列のおみくじに並ぶ。 「もう嫌だ、寒いー」 コート、マフラー、帽子、カイロと装備万端だったが、それでも寒くてたまらなかった私は不満をもらす。 「じゃあ、もう帰る?」 母のいらついた声を聞いて、更に不満は募る。 帰りたいわけじゃないんだよ。 今年一発目のおみくじなんだから、引きたいに決まってるじゃない。 ただ寒いだけなの。 なんで分かってくれないのかな。 「ほら」 母とのやりとりを隣で聞いていた父がそっと私の手を取ると、コートのポケットにつっこんだ。 あったかい……。 父の手はいつも温かい。 今はお互い手袋をしているけれど、父の手のぬくもりが伝わってくる。 私はそんな父の温かさが、優しさが大好きだった。 でも、今はもう…… そのぬくもりを感じることはできない。 この先もずっと。 「ごめん、待った?」 ふいに話しかけられて、我に返る。 長いこと思い出に浸っていたらしい。 隣を見れば大好きな人の姿があった。 自然と笑みがこぼれる。 「さっき来たところだよ」 そっか、と彼はうなづくと手を差し出してきた。 「じゃあ、行こうか」 「うん」 彼の手を取る。 父とは違うぬくもり。 もう父の温かさを感じることができないのは寂しい。 でも、今繋いでいるこの手の温かさを大事にしていきたい。 来年も2人で初詣に来れますように。 幸せを噛みしめながら、彼の手を強くにぎった。
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