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彼女の帰還
『この世界をいつか壊したいの』
アディソンの口癖だった。
僕は昔の彼女の姿が埋め込まれた印画紙を取り上げ、目を細めて見つめる。
金髪マッシュルームヘアの幼い彼女は不健康そうな顔でこちらを見ている。
この世の全てに諦めているような虚ろな目。
可哀想な少女だった。
彼女の過去の噂は聞くに耐えないものだった。
彼女の両親はヤク中で彼女の世話をせずに放ったらかしだったとか。
引き取られた先の親戚でたらい回しにされ、挙句に酷い目にあったとか。
近隣の住民が通報したとき、彼女は犬の檻に入れられていたとか。
その後の里親先も酷いところで、里親は幼い彼女を監禁していたとか。
沢山の男たちを相手に売春させていたとか。
そのときタチの悪い客から受けた傷がもとで、幼い彼女はもう一生子供が産めない身体になったとか。
『でもあいつ、すっげえ頭良いんだってよ』
施設にいた年かさの子供の一人がそう話しているのを聞いた。
彼女のIQは400以上あるんだとか、ないんだとか。
カレンダーが何十年後まで、頭の中に入ってるんだとかないんだとか。
暗算で割り切れない割り算をさせると、止めるまで延々と答え続けるんだとか。
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