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「生きた人間を生かしたまま解剖し終えた経験はない。医者じゃねーんだ、縫合なんて器用な真似できるかよ。死体を切り刻んで中身を取り出したことなら何度もあるけどな」
「………………!」
会話がしばらく途切れた。
俺は歩きながら、空を見上げた。高層ビルに切り取られた、ちっぽけな青空のかけら。
悲しみとみじめさをいっぱいにたたえた、さっきの子供の瞳を思い出す。
――どう生きていけばいいのか、何を目指せばいいのか、見当もつかないけど。
少なくとも、自分を嫌いになるような生き方はしたくない。
このまま、ガキのおもちゃを踏みつけなきゃならないような仕事を続けていたら、最後には魂の底まで濁りきった人間になるだろう。自分で自分を許せなくなるのは目に見えている。
「なあ、先輩。俺、できれば、ぶちのめしても全然良心が痛まないようなタチの悪いふてぶてしい債務者を専門で担当したいんだけど。そういうのってアリかな?」
俺の言葉に、ボリスラフは驚いたように一瞬目を見開いたが、すぐに「はっはあっ!」と上機嫌な笑い声をあげた。
「そりゃあいい! ぴったりだ! 俺がすぐにでも社長に掛け合ってやるぜ。おまえ知らねえだろう。わが社にどれぐらい『タチの悪いふてぶてしい債務者』がいるか。そんな連中を自ら進んで担当したがるとは……社長もお喜びになるだろうぜ」
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