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「おまえ、『こういう仕事は初めて』だなんて、絶対に嘘だよな? 慣れてるよな、絶対?」
「……採用面接のときに『経歴不問』って言われたぜ。あんたも人の前歴なんか知りたがるなよ」
――新しい街では堅気の暮らしをしよう、と誓ったはずだった。
ギャングとかそういうものとは縁を切って、普通に働き、まじめで地味な生活を送ろう、と。
だが、このノヴァヤモスクワの街へ流れ着いてわかったことは、I Dがなければそもそも堅気の職には就けない、ということだった。ちゃんとした事業者は、身元もわからない怪しい奴を雇ったりはしない。
[研究所]で作られた人造人間である俺には戸籍も社会保障番号もない。お手上げだ。
金さえ出せば、「本物の」戸籍を闇で買うことができる。
その金を手に入れるためには、結局、こういう堅気とはほど遠い仕事をするしかないってことだ。
ボリスラフがようやく口をつぐんだので、俺は日光の温かさやビルの谷間に吹く春風の心地よさを存分に味わった。周囲は光に満ちている。人生そう捨てたものでもない、と錯覚できる瞬間だ。
俺たちは今日三軒目の債務者の家へ向かった。
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