A new job in a new city.

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 近所に聞こえることを狙っているボリスラフのわめき声。哀れっぽい女のすすり泣き。  何もかもが三流の芝居みたいに安っぽい。  俺はため息をついて、室内を見回した。  部屋の持ち主は整理整頓が苦手らしい。こぎれいな洋服やバッグ、靴などが部屋中に散乱している。買ったばかりなのか、店の商品保護パックに入ったままの小物も多い。  たぶん、物が多すぎてクローゼットに入り切らないんだな。 「とりあえず、有り金を全部出せ。手持ちのキャッシュ全部だ。アカウントを空にしろ」 「待って……お願いです。それを持って行かれたら……今夜から食べるものもなくなっちゃう。私は別にいいんですけど、この子が……!」 「そんなこと知るかよ。言っとくがな、この程度のキャッシュじゃ全然足りねえんだぞ。残りの借金はどうするつもりだ、え?」  女のPDCを取り上げたボリスラフと、それを取り返そうとする女とが、ちょっとした揉み合いを繰り広げる。その拍子にどちらかの足が床に置かれていた箱に当たった。箱は吹き飛び、中に入っていた粗末な玩具を床にぶちまけた。  子供の泣き声がいっそう高まった。  ボリスラフがいら立たしげに顔を歪めた。 「ギャンギャンうるせえんだよ、くそガキが。頭を叩き割られてぇのか!」     
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