A new job in a new city.

9/13
前へ
/13ページ
次へ
 俺は強く床を踏み込み、一瞬で移動した。ボリスラフが木製の汽車を踏みつぶす直前にその右腕をとらえ、投げ飛ばした。ボリスラフは宙を飛び、洋服が山ほど積み上がったソファに背中から着地して、「ぐえっ」とウシガエルのような呻き声をあげた。だがその声は、女の悲鳴にほとんどかき消されてしまった。  びっくりしたらしく、子供の泣き声がぴたりと止んだ。涙のたまった目を丸くしてこちらを見上げている。 「な……何しやがんだ、てめえ……!」 「あんたのやり方は合理的じゃない。ガキのおもちゃ踏みつぶしたって、金は返ってこねえだろ?」  俺は、まだ立ち上がれないボリスラフの手からPDCを取り上げ、女の口座からユロージヴイ金融への送金手続を完了した。  視線を戻すと、女が警戒の目で俺をじっとみつめていた。  その化粧はほとんど崩れていない。ってことは、あれだけ派手に泣いてみせていたのはフェイクだったってことだな。 「おばさん。被害者づらするのはやめてくれ。借りた金を返す……ってのは人として当たり前のことなんだよ。あんたの言ってる『給料の遅配』が本当かどうかは知らないが。こんなにアホみたいに服やら鞄やらを買い込む金があるのに借金は返せない、なんて話は通らねーぜ?」  俺はできる限り穏やかな声で語りかけた。     
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加