幸せの配達人

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 …そして、雲の上へと辿り着きました。  空飛ぶ絨毯は雲の上を、ふよふよ、ふよふよ、ゆったりと漂います。 「わぁ……っ!」  女の子は、感嘆の吐息を漏らしました。  目の前に広がるのは、一面の雲海。  夜の空は、真黒じゃなくて、  濃い、藍の色。  深い深い、海の様な色。  そしてお空には、まんまるお月様と、きらきらお星様。  こんなにも大きく、近くに見えるなんて。 「…綺麗…」  女の子は、手を伸ばします。  伸ばせば届きそうな、お月様とお星様に。  配達人さんは感動に顔を蕩けさせる女の子に、自分が付けていた雪の結晶の髪飾りを着けました。 「…うん、良く似合っている」 「……あの…その…」 「…今回私に託されたお仕事は、君の未来を失わせない事。  …良かった。  間に合って、本当に…本当に良かった」  あの時。  雪兎が女の子を迎えに来た、あの時。  女の子が林檎を剥いていた、あの瞬間。  …女の子はじっと、包丁を見ていたのです。  もしあの時、雪兎が迎えに来なければ、  …きっと包丁は、女の子自身の頸動脈に向けられていた事でしょう。 「今まで、良く頑張ったね」  …そうして、女の子は、 「…………うぁっ……」  小さく声を上げたかと思うと、 「うああああ…うああああっ……!」     
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