第1章 ー黒ー

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第1章 ー黒ー

ーーパチッパチパチ 意識を取り戻して最初に聞こえたのは、小さく炎が弾ける音。 五秒ほどぼーっとしてようやく嫌な夢から覚めたことに気づいた。 硬い地面の上に布切れ一枚しか敷かずに寝たせいで、体のあちこちに痛みを感じながらもゆっくりと体を起こす。 と、同時に体の上かけられていた上着がふわりと落ちる。私の物ではなかった。 隣を見ると少し丸まった体制でハルが寝ていた。 どうやらハルが自らの上着を掛けてくれていたみたいだ。 ここら一帯は昼間は過ごしやすい気候だが、日中も陽の当たらない岩の洞窟の中で眠るとなれば肌寒い。 気の利くハルの事だから女の私に気を使って掛けてくれたのだろう。 まだ日が昇るには早い時間だったが目も冴えてしまったし、何よりもう一度眠れそうにもないので上着はそっと返すことにした。 上着を掛けると、もぞもぞと上着の中に潜って行ったのでやはり少し寒かったのだろう。 洞窟の外に出るとひんやりとした風が頬を撫で、月の明かりが私を照らした。 もう数時間したら夜明けだろう。やはり少し早く起きすぎてしまった。 夜明けまで何をしようかなどと考えながら、しばらく月を見ていると後ろからハルの声が聞こえた。 「ノア…?もう起きたの?」 体を半分くらい起こして、目を擦りながら眠そうにこちらを伺っている。 「ごめん、起こしちゃった?目が覚めちゃって、眠れそうもないから」 「そっか…夜風は冷たいから、風邪をひかないようにね」 「うん、ありがとう」 私の返事を聞いた後にハルは、少し口を開きかけて何かを言おうとしたが、少し悩んだ後、結局何も口にすることは無く、もう一度眠りについてしまった。 私は洞窟の入口に座り込むと、森の木々や月を眺めながら、夢のことを思い出していた。 何故かあの夢のことが気になって仕方がなかったのだ。 不安のような恐れにも似ている、夢の事を考えると変な気持ちになった。 小さな女の子は自分のことをノア、と言っていた。という事は女の子は昔の私…? あの夢は小さい頃の記憶だろうか。だが、私の覚えている限りではあんな記憶は無いし、母のような人物の顔にも見覚えはなかった。 あの夢は昔実際に起きたことを忘れてしまっていた記憶かもしれないし、ただの想像でしかないのかもしれない。 あるいはその両方が混ざった物なのかもしれない。 何にせよいくら考えても答えが出る気がしなかった。
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