第1章 ー黒ー

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結局、気にしないようにする事が一番だと判断し、夢の事を考えることをやめた。 洞窟の入り口に座り込み、もう一度空を見上げると、さっきの夢のせいなのか母の事を思い出した。 母との記憶を思い出すと、自然と手のひらを出し、そこに魔力を込めた。 そこに氷の結晶をイメージすると、手の周りに無数の小さな水色の光の粒が浮かび、粒が光の帯作りながら手の中央に集まっていき、徐々に氷の結晶を作る。出来上がった結晶にもしばらくの間は光の粒が纏う。 その様子は、まるで星が集まって来るようでとても綺麗なのだ。 そして、それが母との一番の思い出だった。 私は昔から魔法を使うのが好きだった。 これを見ると心が落ち着くような気がする。 昔は、これを見る為だけによく魔法を使って遊んで、その度に「むやみに魔法を使うんじゃありません!」と母親に怒られていたものだ 。 頬を緩ませ、昔のことを思い出していると、ふと少しの違和感に気づいた。 ーー私の母親の顔はどんな風だっただろうか…? 母の顔を思い浮かべると顔に靄がかかったようになって思い浮かべることができない。 思い出そうと記憶を辿る程に靄は濃くなる。 そんな、思い出せないはずがない。 あんなにも楽しかったはずの、あんなにも大切だったはずの思い出がどんどんすり減っていく。 記憶は欠落していくばかりだ。 最初は断片的に曖昧になり思い出そうとしても決して思い出せない。そして、日が経つごとに曖昧になった記憶とともに忘れてしまったことさえ忘れていく。 頭が痛い…。無理に思い出そうとするといつも頭痛がするーー ーーコツンッ ぐちゃぐちゃになった私の思考を遮るように一つの音が耳に入った。 音のした方を見ると、ハルが立っていた。 「僕も、目が冴えちゃった」 そう優しく笑いながら言うと「体が冷えちゃうよ」と、手に持っていたホットミルクを私に渡して、背中に上着を掛けてくれた。 そして、私の向かいに座ると、困ったように眉を寄せながら微笑み、伸私の頬を拭った。 「え…?」 何故拭ったのか分からず思わず声を漏らす。 「涙、出てるよ。」 反射的に目の下を触ると手に雫が着いた。慌てて袖でゴシゴシと拭き、その跡を隠すように俯いた。 「ごめん…、ありがとう」 「大丈夫だよ」 ハルはずっと優しく微笑んでいてくれたが、私は両手で包んだミルクを飲んで、ハルの顔から目を逸らしてしまった。 なんだか目を合わせることが出来なかったのだ。 ミルクを少し飲み、だいぶ落ち着きを取り戻したのを確認すると、ずっと静かに待っていてくれたハルがゆっくりと口を開いた。 「また、無くなっちゃったの?」 「…。」 本当の事を話してしまうのか、少し返答に迷ったが、正直に言うにした。 「うん」 「そっか…」 俯いたままの私に優しく返してくれた。
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