第1章 ー黒ー

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そっとハルの方を伺うとほんの少し手に力がこもっていたような気がした。 私の記憶が無くなり始めたのは十六の時。今から一年前のことだ。 最初はただの物忘れくらいにしか思ってなかったが、明らかに記憶が欠如した事を実感するようになったのが半年前。 その頃、幼なじみのハルが有名な占い師の元へ連れて行ってくれたのだ。 そして、その占い師に言われたことが、 "世界の中心にある高き塔にのぼれ、さすれば真実が分かるだろう" 他にも、色々調べ回ったが結局頼りになりそうなことは無く、占い師の言葉だけを手がかりに旅を始めたのだった。 が、旅をしている間も記憶の欠如は進み続けている。本当にその塔とやらを見つけられたら思い出せるのだろうかーー * ジューー 再び目を覚ますと美味しそうな、いい香りが鼻を抜けた。 いつのまにか眠ってしまっていたみたいだ。 ゆっくりと体を起こすと隣で目玉焼きを焼くハルがいた。私が起きたことに気がつくと、おはよう、と笑いかけてくれた。 「おはよう、ごめんいつの間にか寝ちゃってたみたい」 「ミルクを飲み終わるなり、いきなり寝ちゃったからびっくりしたよ」 外を見るとすっかりと明るくなっていた。ハルの入れてくれるミルクを飲むといつも安心して眠くなってしまう。 そういえば、私は洞窟の入口でミルクを飲んでいたはずだが、今は奥の焚き火の横で寝ている。 「もしかして、ここまで運んでくれたの!?」 私にとっては、とんでもないことに気づき寝ぼけた頭が冴える。 「ああ、うん風邪をひいちゃうからね」 「重かったでしょ?そのままで大丈夫だったのに…」 「全然軽かったよ?」 きょとん、と当たり前の事のように言う。 ハルは相変わらず気が利くんだか気にしてないんだか…。 「はい、出来たよ。どうぞ」 そんなこんな、話している間に料理を完成させ、私にお皿を差し出してくれた。 ここに来る道で通った村で買った卵の目玉焼きと軽くトーストされたパン。それから森で取れた山菜のサラダ。 野宿で食べる朝ごはんには到底見えない。 「いただきます。」 少し心配そうにこちらを伺うハルの視線を感じながら、 ゆっくりと味わう。 「ーーうん、おいしい!」 少し半熟の目玉焼きに野菜には手作りのドレッシングがかかっていた。私好みの味だ。 「良かった」 心底嬉しそうな顔で微笑むハルの顔を見て、複雑な気持ちになりながらも朝食を食べ終えた。
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