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手も洗わず制服も着替えず、そのまま机に向かう。
と言っても、机の上は漫画と飲みかけのコップとなんだかよくわからない紙きれとか、チラシとかなんかそういうもので支配されていて、その下にやりかけの数学のプリントがチラリズムなわけなんだな。
数学のプリントを引っ張り出すのではなく、上のものをスライドさせて端に寄せる。もちろん下に色々落ちるわけだがもうそれはいい。
シャーペンが見つからない。あーため息。机の横にひっかけた指定鞄の中からペンケースをまさぐりだす。
「お気に入り」でもないけれど、誕生日プレゼントに友達にもらったお揃いだから気に入っている、金の星が揺れる水色の細いシャーペンを取り出しプリントを手繰り寄せた。
机に対して斜めのプリントに斜めに曲がった私が挑もうにも、体は言うことを聞かずペンを置く。
挑む前に休息がほしい、あちこちと軋んでいる。
鞄から社会のノートを引っ張り出して、通常とは逆、裏表紙からめくると、そこには描きかけのイラストがある。
じわりとシャーペンを動かし描きだすのは私だけの世界だ。
瞳は大きく、
薄く光る口元には美しい笑み、
髪は長くてストレート、
お人形のようにすらりと長い脚、指。
のめり込みカッカッカッと芯が割れんばかりの熱情でリズムが響くと、こちらの口元も自然と緩んでいく。
「ただいまくらい言ったらどうなの」
いきなりドアが開いて、ママが小言口調で覗いてくる。ドキリとしてすっと手元を隠した。
「言ったよ」
「聞こえない」
「言ったし」
「聞こえてないんだから大きい声で言えばいいでしょ」
聞こえてないだろうことはわかっていたし、だから足音でアピールしたんだからそのあたり察すればいいのに、大人なんだから。
「あんた今日おやつ食べないの?」
無表情を貫きたいが部活後だ。食べないと言い切りたいところだけど、その内容は気になる。しばし心を整えてママに向き合う準備をしていると、
「食べないのね。わかった」
と、ママが読まない空気で即答した。
「部活やってきたんでしょ? 水着先に洗っちゃいなさいよ」
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