【雪の中の人影】

2/5
前へ
/5ページ
次へ
さて。 俺が、高校生だった頃の話。 当時、俺は隣町の高校にJRで通っていた。 その高校は、列車を降りてJR駅を出てから徒歩三十分の所に有った。 実は、駅から学校の方角に向かうバスが一路線だけ有ったのだが… そのバス… 確かに最初のうちは、学校方面に向かう。 しかし、途中から曲がって全然違う方角に行ってしまうバスだったので、 俺も含めて『JR通学組』のほとんどは、 そのバスに乗らずに、駅からオール徒歩で通学していた。 (バスを利用しない分、定期券代も安く済むしね) さて。 そんな、ある日の真冬の夕方の事。 時刻は、午後五時を少し回ったあたり。 外は、と言うと… すっかり日が暮れて真っ暗になっていた。 その上、いつの間にか、結構な勢いで雪がシンシンと降り始めていた。 (吹雪ではなかったが) 「うわぁ。降ってきたなぁ。とっとと帰ろっと」 その日一日の授業を終え、 高校の校舎から出た俺は、地元在住の友人と別れて帰宅の為にJR駅へと一人、歩き始めた。 学校から、駅まで… 歩いて約三十分…。 ちなみに… 学校の周辺は、見渡す限りの田園地帯だ。 コンビニも滅多に無く、民家もぽつんぽつんと有る程度の田舎町である。 この真冬の季節… 辺り一面は、雪で本当に真っ白な銀世界になる。 俺的には『白世界』と、名付けても良いくらいだ。 そして、夜ともなると… 道を照らす明かりは月明かりか街灯だけで、 ホントに暗くて、さびしげな通学路だった。 「それにしても… めちゃめちゃ寒いなぁ! うーっ!早く駅に着かないかなぁ」 俺は、寒さに震えながら暗い夜道を足早に歩いた。 雪は… 相変わらず、シンシンと降り続いていた。 そして… しばらく歩いて… ふと… 前方を見た俺は、 「え?」 ちょっと驚いてしまった。 と、言うのも… 俺が歩く少し先に、 街灯が点いた電柱が一本、立ってるんだが… その真下に… 小さな人影が一つ… ぽつんと立っているのが見えたのだ。 「はて…。 あの人、こんな雪の夜にあんな所で一体、何をしているんだろ」 俺は不思議に思いながらも、そこに近付いた。 その人影は… 一人の小柄な、お婆さんだった。 雪がシンシンと降る中、 電柱の街灯の下で一人、真っ赤な花柄の傘をさして立っている。 辺り一面の白い世界の中… その真っ赤な花柄の傘は、やたらと目立っていた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加