【雪の中の人影】

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さて。 俺が、高校生だった頃の話。 当時、俺は隣町の高校にJRで通っていた。 その高校は、列車を降りてJR駅を出てから徒歩三十分の所に有った。 実は、駅から学校の方角に向かうバスが一路線だけ有ったのだが… そのバス… 確かに最初のうちは、学校方面に向かう。 しかし、途中から曲がって全然違う方角に行ってしまうバスだったので、 俺も含めて『JR通学組』のほとんどは、 そのバスに乗らずに、駅からオール徒歩で通学していた。 (バスを利用しない分、定期券代も安く済むしね) さて。 そんな、ある日の真冬の夕方の事。 時刻は、午後五時を少し回ったあたり。 外は、と言うと… すっかり日が暮れて真っ暗になっていた。 その上、いつの間にか、結構な勢いで雪がシンシンと降り始めていた。 (吹雪ではなかったが) 「うわぁ。降ってきたなぁ。とっとと帰ろっと」 その日一日の授業を終え、 高校の校舎から出た俺は、地元在住の友人と別れて帰宅の為にJR駅へと一人、歩き始めた。 学校から、駅まで… 歩いて約三十分…。 ちなみに… 学校の周辺は、見渡す限りの田園地帯だ。 コンビニも滅多に無く、民家もぽつんぽつんと有る程度の田舎町である。 この真冬の季節… 辺り一面は、雪で本当に真っ白な銀世界になる。 俺的には『白世界』と、名付けても良いくらいだ。 そして、夜ともなると… 道を照らす明かりは月明かりか街灯だけで、 ホントに暗くて、さびしげな通学路だった。 「それにしても… めちゃめちゃ寒いなぁ! うーっ!早く駅に着かないかなぁ」 俺は、寒さに震えながら暗い夜道を足早に歩いた。 雪は… 相変わらず、シンシンと降り続いていた。 そして… しばらく歩いて… ふと… 前方を見た俺は、 「え?」 ちょっと驚いてしまった。 と、言うのも… 俺が歩く少し先に、 街灯が点いた電柱が一本、立ってるんだが… その真下に… 小さな人影が一つ… ぽつんと立っているのが見えたのだ。 「はて…。 あの人、こんな雪の夜にあんな所で一体、何をしているんだろ」 俺は不思議に思いながらも、そこに近付いた。 その人影は… 一人の小柄な、お婆さんだった。 雪がシンシンと降る中、 電柱の街灯の下で一人、真っ赤な花柄の傘をさして立っている。 辺り一面の白い世界の中… その真っ赤な花柄の傘は、やたらと目立っていた。
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