死が二人を分かつまで

4/4
前へ
/4ページ
次へ
「先生がお帰りになるので、僕が送っていきます!」  岸谷は、律儀に声を張り上げた。  女性は幾つになっても目敏いものだ。 「あら。先生と岸谷さん、腕組んでらっしゃらなかった?」 「シーッ。うふふ……」  そんなざわざわが遠ざかる。  通行人が見れば、それは『介護』に見えただろう。 「先生は、おでんはお好きですか?」 「あ……ああ」 「何がお好きですか? 僕は、大根が」 「私は、はんぺんかな」  そんな他愛のない会話を交わしながら、私は岸谷の腕にすがってゆっくりと歩く。  老いらくの恋は情が深いなんて言うけれど、この年になってまた恋をするとは思わなかった。  歩調を合わせて歩いてくれる岸谷の優しさに、私は恋の始まりを見出していた。 End.
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加