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「先生がお帰りになるので、僕が送っていきます!」
岸谷は、律儀に声を張り上げた。
女性は幾つになっても目敏いものだ。
「あら。先生と岸谷さん、腕組んでらっしゃらなかった?」
「シーッ。うふふ……」
そんなざわざわが遠ざかる。
通行人が見れば、それは『介護』に見えただろう。
「先生は、おでんはお好きですか?」
「あ……ああ」
「何がお好きですか? 僕は、大根が」
「私は、はんぺんかな」
そんな他愛のない会話を交わしながら、私は岸谷の腕にすがってゆっくりと歩く。
老いらくの恋は情が深いなんて言うけれど、この年になってまた恋をするとは思わなかった。
歩調を合わせて歩いてくれる岸谷の優しさに、私は恋の始まりを見出していた。
End.
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