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ここに、一つの写真がある。柔らかな薄いベージュの額縁。大きさは人の顔ほど。本来の白い木枠に、少々解れの見え隠れする布を巻いて、この世に一つだけ、この写真のためだけに設えられた額だ。写真を撮った者の愛用していたソファ、その生地を切り取り巻いたものであり、この額を含めて一つの作品であるのだ、とすぐ横のキャプションには記載されている。
街路樹の緑が透けて道に薄っすら葉の面影を映す六月に、とある写真家の展示会は開かれている。観覧者の入りは上々。各々が目当ての作品を求めて集まって来ている。
彼らを真っ先に迎え入れるものが、この写真だ。真下のプレートには、この会場で唯一の手書きで、作品名が記されている。
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