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電話が鳴っている。
その報せが私に届いたのは、随分と朗らかな四月のことであった。例年より些か強い太陽光がカーテンをすり抜け、飾りの少ない無地の壁紙を焼いていた。よくある日曜日の昼過ぎ。気怠さと心地好い眠気を伴った日だったことだけは、薄ぼんやりと覚えている。
テテテテン、テテテテン、と機械的な音が私の意識を醒ました。なんのこだわりもないその音は、初期設定のままのスマホの着信音である。リビングに置かれたよくある薄茶色のソファで、見るともなしにテレビを眺めていた私は、休日に掛かってきた突然の電話に軽く首を傾げながら画面を確認した。
03×××××××××
そこには見慣れない十一の数字。頭の二桁から辛うじて都内からの発信であることが伺えた。一体何処の誰が何の用事だろう。疑問ばかりのまま、私は電話を取る。頭の中で心当たりのありそうなものを考えながら、テレビの音量を低くする。
「はい、芹沢です」
「突然のお電話、大変失礼致します。こちらは芹沢陽子さんのお電話でお間違いないでしょうか」
「私が芹沢ですが」
「こちら、シリア・アラブ共和国大使館です。私は大使館役員の大西といいます。申し訳ありませんが、ご本人確認のため、生年月日をお願い出来ますでしょうか」
大使館。日本国内で生活する分には関わることのないであろう場所からの連絡だ。予想外と言えば予想外であり、しかし私には思い当たることが一つだけある。
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