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「医者としては、熱発で赤い顔してる患者の要求なんか聞いてられないな」
抱きしめている佐藤の腕が、桜井の背中を優しくさする。
「呼吸音もなんかおかしい。おまえ、喘息持ちだろう。発作が出かけてる」
「私の持病をよく知ってますね」
喘息は子供の頃から切っても切れない縁だ。ちょっとした疲労や激しい運動、ストレスでも発作が起きるので、桜井はポケットに発作止めを入れている。
佐藤に喘息のことは話した覚えはないのだが、もしかして綾樹から聞いたのかと尋ねてみると、佐藤は「いや?」と笑った。
「喘息患者はすきま風みたいな音を出して呼吸をする。聴診器当てなくてもわかるさ」
佐藤は自身の手のひらを桜井の背中に押し付け、耳元で囁く。
「俺の手が背中に当たっているのがわかるか。ここに触れれば、おまえの身体の悲鳴が手のひらを通して感じ取れる。呼吸も苦しそうだ。やはり今日は、おまえをここから出せない」
「驚きました。あなたがお医者様らしいことを言ってるなんて」
「医者だからな。正確には、相当腕がいいという枕詞付きだ」
「自惚れですか」
「いいや、事実だ」
佐藤は言いながら桜井の頭に腕を差し入れた。腕枕をされて、そのうえ胸に抱き寄せられて、どうにも身体が熱くなる。
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