大晦日のフレグランス

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 佐藤と身体を繋げたことなんか何度もあるのに、ドキドキが止まらない。  こんな気持ち、綾樹のことが好きだったころに似ている。  (ん?)  綾樹のことが――「好きだった」?  自分の中で綾樹が過去形になっている。 (どうして?)  あれほど綾樹が好きだったのに。  佐藤に抱かれるのは、ただのストレス解消なのに。  どうしてこんなにも、佐藤の存在だけが強く強く心にあるのだろう。  それでもひとつだけ、確かなことがある。  今、この瞬間が。  佐藤の腕の中にいるこの瞬間が、とてつもなく幸せだ。 (ああ、私は……)  自覚した。  佐藤のことが、好きだ。とても。  彼から離れたくない。  ずっとこのまま、抱いていてほしい。  はっきりわかってしまった。  綾樹の代用品としてではなく、佐藤が好きなのだと。  子供の頃からずっと綾樹が好きだった。でも彼は、桜井じゃない人と恋を始めた。  悔しくて悲しくて。それ以上に、何も出来ないままだった自分に後悔した。  長い間一緒にいたのに、気持ちを伝えられないままで、桜井の恋は片想いは砕け散った。  佐藤は、そんな桜井の荒れた心を土足で踏み荒らしていくだけの男だった。     
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