大晦日のフレグランス

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 それでもくすぶる思いは行き場所がなく、佐藤と身体を重ねることで、熾火のようにいつまでも心を灼く恋情に水をかけてきた。  その火は絶対に消えない。  しばらくすれば、かなわぬ恋へのストレスを燃料にして、また燃え上がる。  セックスをすることで、ストレスを発散させていたのだ。  佐藤とのセックスは、綾樹に抱かれる妄想。  そのはずだったのに。  今はーー佐藤に抱かれたい。   この気持ちが、佐藤への気持ちが本物かどうか確かめたい。   抱かれれば、きっと答えがでる。  彼に抱かれるときに、綾樹の幻影を見なければ、桜井の心の中にいる人が誰か、わかる。  それを知ったら、もう自分をごまかさない。  今度はちゃんと、自分の気持ちを伝える。  今度こそ、恋を間違わない。 「裕二……」 「なんだ?」 「お願いがあります」  今しかない。  自分の気持ちを確かめるのは、今しかないのだ。「……私を抱いてほしいんです。今、ここで」
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