大晦日のフレグランス

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「おまえからそういうのは初めてだな。だがわかっているか? 自分から抱いてくれと言う意味を」 「意味……?」  聞き返す桜井を身体から離し、佐藤は熱い瞳で桜井を見つめた。 「俺達の関係が変わる。おまえは俺だけのものになると言うことだ。身体も……」  佐藤は桜井の左胸に自らの手のひらをそっと押しつける。 「心もだ」 「……はい」 「おまえの中には、まだ新城がいるんだろう?」 「わかりません……だけどあなたに抱かれれば、その答えが見える気がします」 「……答え?」 「このところ、ずっとずっと浮かぶのはあなたのことばかり。私が世界で一番大嫌いなあなたのことです」  世界で一番嫌いなのかよと、佐藤は苦笑する。 「世界で一番嫌いなあなたが、私の中から離れない。前はあなたに抱かれて、あなたの肩の向こうに見える綾樹を妄想していました。私が絶対に手に入れることの出来ない、綾樹の幻をあなたに見て、刹那の快楽を味わっていた。でも今は…今は違う」  自分の中で大きくなって破裂してしまいそうだ。愛しくて苦しくてたまらなくて、その気持ちがあふれ出す。 「私は欲しいんです。あなたを……裕二のすべてを」 「恭司……」 「綾樹の代用品じゃなく、私はあなたが欲しい。そして、あなただけのものになりたい……」  佐藤はしばし黙っていたが、ややあって口元を綻ばせた。 「ーーわかった」 「裕二……」 「だが、本当にいいのか。新城への恋を捨てていいのか?」 「……はい」 「今ならまだ止めてやれるぞ」 「後悔なんか……もう二度としたくない。黙ったまま、また恋を失うのはイヤなんです。綾樹ではなく、私はあなたを好きになってしまった」  佐藤の胸にすがりついて、懇願する。 「お願いだから、私をあなたのものにして……っ!」 「……おまえの気持ちは分かった」 「ゆう……」 「だが、今はおまえの気持ちに応えてやれない」
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