大晦日のフレグランス

16/43
前へ
/44ページ
次へ
「どうして……っ!?」  自分の気持ちに嘘なんかついていない。  今までは綾樹の代用品としてつき合っていたし、互いにそれを割り切っていた。  だけど、今は違う。  桜井の本心が、佐藤を欲している。  絶対に解けぬ鎖があるならば、もうそれで自分を縛って欲しい。  なのに佐藤は硬い表情で「ダメだ」と首を振る。 「なぜダメなんですか……?」  どうして自分の恋は成就しないのか。  自分の何がダメなのか。  欲しいと思わないときは鬱陶しいくらいなのに、本気になったとたんそっぽをむかれるなんてない。 「私のこと……嫌いなんですか」 「そうじゃない」 「じゃあ、どうして……」 「俺はおまえのことが好きだ。だからこそ、今はダメだ。熱がでてるくせに、無茶はさせられない」 「え……?」  あまりにも拍子抜けした。 「私のこと、嫌いなんじゃ……ない?」 「おまえほど、スキスキオーラをあからさまにしないだけだ。俺は一度として、おまえのことを嫌ったことはない。むしろ、念願叶いそうでホッとしてる。だけど、好きだからこそ、つらい思いはさせたくない」 「つらくなんか……」  苦しい。苦しすぎて、息が詰まる。     
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加