大晦日のフレグランス

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*****  桜井にとってセックスとは、ストレス発散の行為でしかなかった。  チリチリとくすぶる恋情の熾火、心の内部をジリジリ焼かれる痛みを癒すには、幻想に抱かれるしかなかった。  だけど、今は違う。  初めて桜井が望んだ行為。そこには綾樹の幻想も、片恋に苦しむ痛みも何もない。  ただ、佐藤が欲しかった。  ベッドの中で生まれたままの姿になり、桜井は全身に佐藤の所有の証をつけてほしいと願った。佐藤は皮膚が切れるくらい強いキスを桜井の全身に刻んでいく。胸、背中、腿のつけ根……恋人にしか触れさせない特別な場所には特に、佐藤は執拗にキスの花弁を描いていった。  これが夢でないのだと、現実なのだと何度も何度も、佐藤から与えられる痛みを感じるたびに、幸せが全身を満たしていく。 「恭司、おまえ、絶対に人前で服を脱ぐなよ?」  佐藤は満足そうに笑う。 「全身、俺のもんだって証をつけたからな?」 「嬉しい……」  佐藤に何かされてこんなにも嬉しいと感じたことはなかった。  自分の空っぽだった心の中に、彼が満たされていく。 「今度は私が……」  桜井はゆるゆると身体を起こした。 「お願い、少しだけ掛布をどけてもらえませんか?」     
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