大晦日のフレグランス

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 灰色のどんよりとした空から降るのは、強風にのってくるみぞれ。晴れた日には青いはずの海も、今日は白波が立ち、こちらも空に負けず暗い色をしている。  大寒波到来の様相だが、このあたりは山に近いせいか、吹きおろしの風と海風がぶつかり、冬と言えばだいたいこんなものだと、以前に佐藤から聞いたことがある。  この景色を歌にするならば、浮かんでくるのは悲恋、悲壮、失恋、空虚……後ろ向きの言葉しか出てこない。  部屋の住人は年明けまで戻らない。  明日は新年なのに。知らない土地でたった1人の年越しとは。  このまま東京に戻るにしても、時間が時間だから空港に行く足もない。 「仕方ない。今日はここに泊まらせてもらいましょう」  コンビニで買ってきた袋をローテーブルに置き、中身を出す。佐藤と一緒に飲もうと思って、おつまみやビールを多めに買い込んだが、今日はひとりで手酌酒だ。  にしても、この部屋は寒い。Gパンにカッターシャツの上にお気に入りの黒いパーカーを羽織っているが、そんなものでは寒さに対する守備力など無いに等しい。さらにこの部屋はなんだか底冷えする。靴下も履いているが、冷気が容赦なく体の中を侵蝕してくる。  家主がいないのに、勝手にエアコンやファンヒーターを使うわけにはいかない。     
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