大晦日のフレグランス

7/43
前へ
/44ページ
次へ
 部屋の中が薄暗くなった。外を見れば、夜が急激に空を覆い始めている。  電灯からぶらさがる紐を引き、電気をつける。狭い部屋の中が明るくなり、桜井はソファーに腰かけた。   冬の夜は早くて長い。部屋の中にたった一人でいると、ふと子供のころを思い出してしまう。  両親を事故で失った初めての冬。誰もいない部屋で、冬の夜風が窓ガラスを叩く音に怯えた幼いあの日。あの時の淋しさと不安が桜井を襲い、思わず着込んだカーディガンごと自分の身体を抱きしめると、またカーディガンから佐藤のフレグランスがふわっと立ち上る。  ひとりなんて慣れているはず……だけど。  この香りは、不思議と心があったかくなってくる。  時計は午後5時を回ろうとしていた。  今年が終わるまであと7時間。  たった一人っきりのニューイヤーイヴ。 「こんな年越しもたまにはいいものですね。しかし……ああ寒い。ベッド借りちゃいましょう」  布団は最高の暖房器具だ。すっぽり頭まで被れば温かいはず。     
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加