大晦日のフレグランス

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 きれいにセットされたベッドにもぐりこむ。ふわりと軽くて暖かい羽根布団の下には毛足の長い毛布。敷布も起毛タイプだ。布団を頭までかぶると、やはり清潔な緑を思わせる香りがする。佐藤の香りを大きく吸い込み、布団の中でじっとしていると、じきに温かくなってきた。  部屋の中は寒いけど、なんだか気分はほっこりとしている。  佐藤がいないのが少し寂しいけれど、彼の香りに包まれているだけでこんなに気分がおだやかになる。  佐藤の事なんか嫌いなのに。  桜井の気持ちなんか考えず、自分の考えと都合だけを押し付けていくあんな男なんか大嫌いなのに、どうして彼に会いに来てしまったのだろうと考えるが答えは出なかった。  結局、佐藤には会えなかったけれど、後悔はない。  東京に帰った後で、部屋を勝手に使ったことを謝っておこう。  黙って九州まで来たことに、驚いてくれるだろうか?  ーーいや待て。 「私はどうしてこんなにうきうきしてるんでしょうね?」  おかしなものだ。  あんな男の反応が見たくて仕方ないと思うなんて。  でもそれは、東京に戻ってからのお楽しみにしておこう。   長旅の疲れも手伝って、桜井はそのままゆっくりと睡魔に身体を乗っ取られていった。 *****
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