大晦日のフレグランス

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 翌朝7時。スマホのアラームがぬくぬくした微睡を引き裂いた。  アラームを止めようと布団から手を伸ばしたが、あまりの冷気に驚いて手を引っ込めてしまった。そこで少しだけ意識がはっきりしたものの、やはり眠気には勝てない。アラームもなぜか勝手に止まってしまった。  だが、今日は東京に帰るのだ。  佐藤はどうせ明日まで戻らないから、ここにいても仕方ない。でも布団の中がいい感じに暖かい。  もう少しだけ寝てよう……と寝返りを打ったとき、不意に誰かに声をかけられた。 「目が覚めたか?」 「うん……?」 「俺のカーディガンまで着て。寒かったのか?」 「でもあったかいですよ……?」  夢うつつで借りた礼を述べると、声の主は「そうか」と安堵したように桜井の頭をなでた。 「だけどおまえには大きすぎたな。萌え袖になってるじゃないか」  上から降ってくる、優しい声。 「いきなり来て、ベッドに潜り込んでるなんて。しかも可愛らしく眠ってやがる。反則の上、不法侵入だぞ。恭司」  その声の主は何がおかしいのか、笑いをかみ殺している。 ーー待て。   この声は誰だ?     
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