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……白くなる人間……白い石膏像……。
続けざま、なぜかあの街中に立てられたたくさんの石膏像が記憶の奥底から浮かんでくる……。
……みんな、服の皺なんかまで妙に精巧にできていたな……銅像ではなく、石膏像がこんなにあるってのもよくよく考えれば妙な話だ……もしも、あれが白に挟まれた黒づくめの人間の末路だったとしたら……。
「……ハッ!」
そこで、すっかり忘れ去っていたのだが、俺自身も黒づくめの服装であることを思い出した。
……マズイ。今までは奇跡的にその事態に陥ってこなかったが、俺だって白いものに挟まれれば、あの石膏像みたいになってしまうんじゃないのか? ……ならば長居は無用。こんなとこ早く退散しなくては……。
間抜けにも己の危機にようやく気づいた俺は、踵を返すと慌てて駅に戻ろうとする。
「なっ…!」
だが、タイミングの悪いことにも駅からは、ご出勤の時刻なのか、白服のホスト集団が気怠そうに出てくるところである。
「チッ…仕方ない。回り道するか…」
即座にそう判断し、右へ体を向ける俺だったが、するとそちらからも白いブレザーの学生達がぞろぞろとやって来ている。
「クソっ…ツイてないな。ならこっちに…」
と、前と右を塞がれた俺は左を向くが、こっちからも白いセーラー服の女学生達が歩いてくるではないか!
「んなのありかよ!? だったら道を渡って逃げるまでだ!」
三方を塞がれたとはいえ、まだ背後に逃げ道はある……その時、ちょうど横断歩道の信号が青に変わったので、俺は再び踵を返すと駅前の大通りへ向けて走り出そうとする。
「なっ…」
だが、振り返った横断歩道の対岸からは、白いジャージに身を包んだ運動部の一団が波のようにして押し寄せて来る。
「う、嘘だろ? なあ、来るなよ……こっちに来るんじゃない!」
負けの確定したオセロのように四方を完全に白に囲まれた俺は、じわじわと迫り来る各々の集団を交互に見回しながら、譫言のように大声で叫んで懇願する。
「……オセロ……そうか! ここの駅名は〝おぜじ〟って読むんじゃなく、本当は小瀬路……」
極度の緊張と恐怖に意識の朦朧とする中、俺は最期にようやく、そのくだらない親父ギャグのような都市伝説の真相に辿り着いた――。
(すべてが白になる 了)
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