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「となれば、あれしかないな……」
今度のそれは運任せなので、ちゃんと目の前で起きてくれるかどうかも定かではなかったが、その低い可能性に一縷の望みを託し、俺は駅前の大通りへと戻った。
駅前の広場に立ち、大通りを行き来する自動車の群れにスマホを向ける……そう。俺が押さえようとしているのは〝黒い車が白い車に挟まれて白に変わる〟その瞬間だ。
それならば、ラスベガスのイリュージョニストでもない限りそんな芸当できるわけもないし、走行中に起これば画像加工も難しいのでみんな信じてくれるだろう。
だが、白い車が圧倒的に多い中、黒い車は高確率ですぐにも白くなってしまうため、当然のことながら黒い車はなかなか通ってはくれない。
「これはなかなか厳しいかな……」
と諦めかけたその時。
来た!
どっかの政治家か会社役員でも乗ってるのだろうか? この街の怖ろしい法則性を知らない黒塗りのベンツがのこのことやって来たのである。
そのピカピカに磨き上げられた黒塗りの前にはうまいことに白いタクシー……そして、駅前の丁字路で信号待ちをした後、タクシーともども右折したため、左折した対面の白い車がそのすぐ後に入り、ベンツは見事、白い車に挟まれる形となった。
瞬間、これまでの法則性に漏れず、黒いベンツは白いベンツへと変化する。
「よしっ! 撮ったどぉ~っ!」
その一瞬の奇蹟をスマホに収めた俺は、人目も憚らず思わず歓喜の叫びを上げてしまった。
これで、俄かには信じられぬ超常現象の動かぬ(動画だけど…)証拠を手に入れた……それは対外的にばかりでなく、多少なりと自分の頭を疑っていた自分への確かな証でもある。
この小瀬路駅の界隈では「白いものに挟まれた黒いものは白になってしまう」のだ。
都市伝説で云われている「黒づくめの服装で行ってはならない」というのも、最初に思った街の取り決めなんかではなく、やはりそれは字面通りの警告だったのである。
もちろん人間だって例外ではなく、黒い格好で白いものに挟まれば白くなってしまうのだから……。
…………いや、ちょっと待て。人間の場合、白に挟まれたらどうなる?
今さらながらだが、そんな疑問が不意に俺の脳裏を過った。
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