彷徨へる悪霊~コトトキライズリの回想録~

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彷徨へる悪霊~コトトキライズリの回想録~

 あれは十五年前の秋、サオ・ルア(秋のひと月)からフド・ルア(秋のふた月)にさしかかる時であつた。  私はマスカダイン島の北にあるオレア島に滞在してゐた。  私が神官への夢を諦めてコトトキとしての道を歩み出してから、はや一年が()とふとしてゐた。  私は、人の三倍は勉学に励んだが、神官になるには今ひとつ怜悧(れいり)さが足りなかつたのである。  また、持つて生まれた霊力(れいりやく)はトギやナトギの存在をわづかながら感じる程度の感応力(かんのうりやく)しかなかつた。  己の力量を把握しながら、夢を諦めきれずにロウレンテイア神殿の神官登用試験を受け続けた結果は七回もの落選であつた。いづれも一次にさえかすりもせずに。  そんな私のやうな神官への道に夢破れた多くのなれの果ては「コトトキ」であつた。  民に神霊の大いなる力と恵みを語り、祭時には司を引き受け、時には人々の指南役(しなんやく)相談役(さうだんやく)にも応じるコトトキ――は、神官には及ばないものの、人々から歓迎され敬はれる存在だとロウレンテイア人である私は疑ひもなく信じてゐた。     
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