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 エレナは、取り繕っていた偽りの仮面をはずし、首をこきこきとならした。自分の鞄を漁り、たばこを取り出して一服しようとするが、ここが学校であることを思い出し、舌打ちをしてたばこを乱暴にしまった。  不意に、彼女のスカートのポケットに入れた携帯電話が振動する。彼女は電話を取り出し、応答した。 「はい?」 「よおー、エレナ。例の……。綾音ちゃんだっけ? あの子どうなった?」  電話の相手は、エレナのグループメンバーの女子生徒であった。エレナはにやりと笑いながら、机にどかっと立て膝で座った。 「ばっちり、入ってくれるって。まあ、あんだけお膳立てしたんだもの、当然でしょう?」 「あー、お前のお得意のパターンな。ぼっちの人間に優しくしておいて、急に冷たくするやつ。お前マジ悪魔だわ、サイコパスっしょ?」  エレナはケタケタと下品に笑い、「ひどいなあ」と答えた。 「てか、今のメンバー、全員お前の毒牙にやられた奴だよな、私もだし。……あーあ、私も純情な文学少女だったのに、すっかり染まっちまったよ」 「でも、毎日が刺激的で、楽しいでしょう?」 「まあな!」  二人は、また下品に笑いだした。そして、その笑いが収まると、少し真面目なトーンで相手の女子生徒は質問した。 「なあ、なんでエレナは真面目そうな人間だけを狙うんだ? ぶっちゃけ手間だろ、それ」  エレナは、少し考えた後、淀みない言葉で語りだした。 「私ね、『白』を黒く染めることに快感を感じるの。純白な人たちが、どんどんどんどん、どす黒くなっていくのを見てるとね。それだけで幸せなんだ。生きてるって感じがする」  電話越しからでも、相手が引いているのが分かった。そして、諦めたような口調で、女子生徒は言った。 「……お前、ろくな死に方しねーよ」 「知ってる!」  エレナは、この世の全ての喜びを噛みしめた様な声で言い放った。やがて、他愛もない会話は終わり、電話は切れた。
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