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「綾音さん、お昼一緒に食べましょう?」
四時間目の授業が終わって昼休みに入り、教室内が騒がしくなってきたころ、一番後ろの窓際の席で、黒須綾音は声をかけられた。
「あ……うん!」
綾音は破顔し、目の前のお弁当箱を持って微笑んでいる真白エレナを見上げた。
二人は綾音の机にお弁当を広げ、向かい合って食べ始めた。
「昨日、パパと外食したんだけどね。そこで――」
「うん……。うん」
綾音は相槌を打ちながら、エレナの話を聞いていた。いや、実をいうと話の内容はほとんど頭には入ってきていなかった。エレナの小さく上品な口がもぐもぐと動き、ご飯を咀嚼する様。透き通るような、白くて、ニキビなどひとつも存在しない綺麗な肌。大きな瞳。背中まで伸びた、光が当たればきらきらと輝く艶のある黒髪。綾音の興味は、エレナの人並外れた容姿にのみ存在した。
なぜ前に座っている美少女は、クラスの中でも最底辺に位置するであろう見た目の自分と、仲良くしてくれるのだろう。綾音は、自分のニキビだらけの肌と、天然パーマでくりくりの髪を、エレナのそれと比較し、少しだけ悲しくなった。
綾音は都内の私立女子高に通う、今年から二年生になった女子高生である。二年に進級したさい、一年生のときに比較的仲が良かった人たちとは違うクラスになってしまい、加えて引っ込み思案の性格が災いして、綾音は新しい環境になかなか馴染めずにいた。
一ヶ月が経過し、五月になっても彼女は一人のままで、昼休みには教室の隅でもそもそとお弁当を食べていた。
そんなとき、不意に話しかけてきた女子生徒がいた。それがエレナだ。
エレナはクラスカーストのトップに君臨し、とても綾音と釣り合うような存在ではなかった。
それでも、彼女は眩しい笑顔で言ってくれたのだ。
「お昼、一緒に食べましょう?」
それ以来、二人は友達となった。
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