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「それじゃあ、綾音さん。また明日ね」  放課後、エレナはそう言うと、友達と一緒に教室を出ていった。綾音は「うん」と言って、それを見送った。エレナのグループは、見るからに『イケている』グループだ。だが、綾音は、その中には含まれていない。  彼女と友達と言っても、昼食を一緒に食べる程度の仲である。学校帰りどこかに寄ったり、まして休日に会って遊ぶような間柄ではない。  ――まっ、あのグループに私が入っても浮くだけよね。ぷかぷか浮きまくりよ。 綾音は自嘲気味に笑った。笑った後、それを誰かに見られていないか周りを確認したが、大丈夫なようだ。クラスの誰も、彼女のことなど気にしていない。  綾音は心の中で「帰ろ……」と呟き、鞄を持って教室を後にした。  綾音は自宅マンション最寄りの、バス停留所でおりた。ぷしゅーという、バスのドアが閉まる音を背に、彼女は足早に歩きだす。  そういえば、寄り道なんて一回もしたことないな、と彼女はなんとなく思いながら、脇目も振らず帰路を急いだ。 「ただいまー」  綾音は鍵を差し込み、ドアを開け、誰もいない家にむかって帰ったことを知らせた。両親は共働きで、この時間は不在だ。  彼女は四畳の飾り気のない自室に入り、制服を脱いでハンガーにかけた。私服に着替え、ベッドにうつ伏せに勢いよく倒れ込む。  ――今日も疲れた。なんで部活もしていないのに、毎日毎日こんな疲労困憊なんだろう。  綾音はむくりと起き上がり、洗面所に向かった。そして、鏡に映る己を直視する。 醜い。なんなのその、ちりちりパーマは。どこの音楽家よ?  彼女は嘆息する。疲労の原因は分かっているのだ。彼女の容姿のコンプレックスからくるものだ。他人からどう思われているか、常に気にしている自分がいる。  ――真白さんはいいなあ。毎日、楽しいんだろうなあ。  綾音の、嫉妬と紙一重の感情が這い出てくる。だが、それを頭を振ることでかき消した。ただでさえ見た目がひどいのに、心まで醜くなってどうするのよ、と自身を叱りつけた。
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