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「いやー、面白かったぁ! あの俳優、格好良かったなぁ……」 「ふふ、そうね」  二人は二時間弱の映画を堪能した後、洒落たカフェで紅茶を飲んでいた。そして今は、映画視聴後お決まりの、感想言い合いっこタイムである。  綾音は、まくし立てて感想を言っている一方、エレナは「そうね」とか、「うん」とか、相槌を打つのに終始している。  綾音は途中で気づいた。これは、日ごろ二人の、昼休みの食事中でのやり取りと酷似していると。だがいつもと違うのは、今回はエレナが相槌役になっていることだ。  ということは、今のエレナは自分の言っていることにあまり興味がないのかもしれない。 そう思った綾音は、想いを放出することを中止し、真っ当な会話をすることを心掛けた。 「あの、真白さん。真白さんは、映画どうだった?」 「え? うーん、そうねえ……。正直言うと、登場人物が全員、純心でちょっと退屈だったかな。嫌な奴というか、そういうキャラがいても良かったんじゃないかしら」 「ああ……。な、なるほど……」  結構ちゃんとした目線で見てるんだなと綾音は思い、手放しで作品を褒めていた自分のことを、少し恥ずかしく感じた。  そこで、しばしの沈黙が流れた。するとエレナは、それを待っていたかのように次の話題に乗り換えた。 「話変わるんだけどね。綾音さんは、私のこと『真白さん』って、苗字で呼ぶよね? 下の名前で呼んでくれないの?」  急な話題変更と、少し寂しそうな声音で話す彼女に面食らい、綾音は動揺した。紅茶を一口飲み、気分を多少落ち着いたところで綾音は話し出した。 「それには理由があってね。『真白』ていう響きがすごい好きなんだ。なんか、綺麗で純粋な、真白さんを象徴するような名前じゃない?」 「……へぇ。そうかな」  一瞬、綾音の背筋が凍った。普段の穏やかで優しい彼女の声とは程遠い、氷点下にまで冷えた声色だったからだ。エレナの気を悪くしてしまったと思った綾音は、必死に弁明する。 「あ、ご、ごめんね! 勝手に真白さんの全てを分かったようなこと言って。……良ければなんだけど、次から『エレナさん』って呼んでいいかな?」  それを聞いたエレナは、ぱっと顔を輝かせた。良かった、彼女との仲が悪くならないで、と綾音は、安堵した。
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