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 ブーブーブー――。 そろそろ店を出ようかと話していた矢先、テーブルに置いた携帯電話が、バイブレーション機能により、微かに踊りだす。  エレナの携帯電話だ。彼女は「ちょっとでていい?」と綾音に聞いた。綾音は「うん」と答えた。 「もしもし。……あ、パパ。うん……うん。今日の夜? いいよ、何時にする? ……分かった、九時ね。じゃあね」  エレナは電話を切った。 「今の、お父さん?」 「ええ、そう。夜に外食連れて行ってもらうの」  エレナは上機嫌な顔で答えた。そう言えば、常日頃お父さんの話題をだしてるな、と綾音は何となく思い出した。  その後店を出た二人は、ウィンドウショッピングを楽しみ、夕方頃には解散した。駅で別れるさい、エレナは改札前で、綾音の姿が見えなくなるまで手を振っていた。  綾音は、今日一日のことは忘れることはないだろうと、強く思った。  それからも、二人の関係は変わらずだ。昼食は二人でとるし、授業の合間の短い休み時間に軽い雑談もする。エレナ以外の友達はいまだにできないし、彼女のイケてるグループには混じれていないけど、綾音は満足していた。  ――友達、いいえ、親友なんて一人で十分よね。  そう自分に言い聞かせながら、日々を過ごしていた。そして、二学期に入り、中間テストが近くなってきた十月初頭。  その日も、エレナがお弁当箱を持って、話しかけてくれるのを待っていた。 だが、なぜかエレナはやってこない。彼女の席へ目を向けた綾音は愕然とした。  エレナは、いつものグループに混じって、机をくっ付けて食事をしていたからだ。 なぜ。なぜ今日に限ってそんな……。ああ、分かった、いつも私とばかり食べているから、たまには付き合いなさいよね、とか言われたんだわ。うん、うん、それなら仕方ないよね。エレナさんには友達が多いんだし、それぐらいは我慢しなくちゃ。だから、今日だけは我慢しよう。私が一人でご飯を食べるのは、今日限定。そうだ、そのはずなんだ――。  綾音は、お弁当を広げ、一人で食べ始めた。全く味がしなかった。 教室には、色々なグループから発せられるお喋りの声が反響していた。  恐らく、声量が一番大きかったのは、エレナであろう。 そんな楽しそうにはしゃぐ彼女の声なんて、綾音は聞いたことはなかった。
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