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 次の日の昼休み。綾音は彼女がくるのを待った。だが、来ない。恐る恐る、エレナの席を見やるとまた同じ光景。  次の日も次の日も。訳が分からなかった。ひょっとしたら、自分はエレナを怒らせるようなことを言ってしまったのではないか。そう考えるようになった。そうとしか、思えなかった。    勇気を出して、エレナが一人になった瞬間を狙い、自分から話しかけようとした。 「あの、エレナさ――」  彼女は綾音の方を見ず、すたすたと教室の外へ出て行ってしまう。避けられているのは明白だ。やはり、彼女は怒っている、そう確信した。  綾音は考えた。関係を修復するのは無理かもしれない。だが、エレナには一言謝りたい。 なんとかして二人きりの状況を作りたい綾音は、メールで、エレナにその想いを伝えた。 『エレナさん。どうしても二人きりで話したいことがあります。明日の放課後、クラスのみんながいなくなった時間、教室で会ってくれませんか』  返信はすぐにきた。一言、『いいよ』であった。  次の日の放課後、教室の掃除が終わるまで、綾音は誰もいない離れ校舎のトイレに籠っていた。時間を潰す場所がこんな所にしかないなんて、情けなくなるが仕方がない。頭の中で、どうエレナに謝ろうか何回もシミュレーションを繰り返す。そして、約束の時間が近づいてきた。 綾音はトイレの扉を開けた。ギギギと、老朽化した金属の音が静寂の空間に鳴り響いた。  ――さあ、行こう。  教室のドアを開けると、エレナが窓際に体を預けて立っているのが見えた。最近は、めっきり日が落ちるのが早くなってきた。窓から差し込むオレンジ色の、憂いを帯びた光が、美しい彼女を神々しく彩っていた。まるで、どこぞの国の美術館に飾られている絵画のようだ、と綾音はうっとりした。  だがそれも束の間、綾音が入ってきたことに気づいたエレナは、そちらに目を向ける。惚けていた綾音は、表情を引き締め、エレナへと歩みより、相対した。
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