泉岳寺(せんがくじ)

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「御上(おかみ)が此度(こたび)の我らの義挙(ぎきょ)に如何(いか)なる裁きを致(いた)すか、それを見届け、亡き主君に伝える義務が我らにはあろうぞ」  内蔵助(くらのすけ)のこの主張に、忠左衛門(ちゅうざえもん)は「笑止(しょうし)な」と吐(は)き捨てた。 「御上(おかみ)の裁きなぞ、泉下(せんか)からでも見届けられようぞ。それを何ゆえに、わざわざ生き永らえてまで見届ける必要がござろうや?それに仮に、御上(おかみ)が我らの義挙(ぎきょ)を義挙(ぎきょ)と認めあそばされ、その結果、生きることを許された場合、その後で我らの義挙(ぎきょ)を認められ、吉良(きら)に非ありと認めあそばされ、のみならず、我らも生き永らえることを許されたと、殿に申し上げるべく腹を掻(か)っ捌(さば)くと?これほど滑稽(こっけい)な話があろうか。それよりも今この場にて腹を切るべきであろうが」  忠左衛門(ちゅうざえもん)はいい加減、うんざりしていた。それは忠左衛門(ちゅうざえもん)のみならず、弥兵衛(やへえ)や喜兵衛(きへえ)にしても同じであり、他の義士たちの間でも次第に白けたムードが漂(ただよ)い始めた。 「あっ、いや…」 「まだ何か?」  忠左衛門(ちゅうざえもん)は内心、歯軋(はぎし)りしながら尋ねた。 「もう、正直に申すが…、腹を切るのが怖いのだ」  内蔵助(くらのすけ)の言葉に忠左衛門(ちゅうざえもん)は我が耳を疑った。
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